「ユニバース25」実験は人間社会に何を警告するのか?

 カルフーン博士自身は、この実験結果が人間社会にも当てはまる可能性があると考え、都市の過密化がもたらす危険性について警告を発した。彼は、社会的な役割が不足し、満たされない欲求が高まると、暴力や社会秩序の崩壊が起こりうると結論付けた。
 実際に、この実験は発表当時、都市部の過密化が「道徳的退廃」を引き起こすという人々の懸念と共鳴し、大きな注目を集めた。映画『ソイレント・グリーン』や児童書『フリスビーおばさんとニムの家ねずみ』など、多くの創作物にも影響を与えたと言われている。

悪夢に終わった実験「ユニバース25(universe 25)」楽園はなぜ地獄へ変わったのか?
(画像=画像は「Amazon」より,『TOCANA』より 引用)

 しかし、この実験結果を人間社会に直接的に適用することについては、多くの批判も存在する。主な批判点は以下の通りだ。
人間とマウスの社会構造の違い:人間はマウスよりもはるかに複雑な社会構造を持ち、高い適応能力を持つ。
実験条件の限界:囲いという閉鎖された環境は、人間の社会システムを正確に反映しているとは言えない。
観察の主観性:カルフーン博士の観察には主観的な解釈が含まれる可能性があり、ストレスホルモンの測定といった定量的なデータが不足している。
衛生状態の悪化:個体数の増加に伴い、囲いの衛生状態が悪化した可能性があり、それがマウスの行動に影響を与えたとも考えられる。
倫理的な問題:この実験はマウスに多大な苦痛を与えたとして、動物福祉の観点から問題視されている。現代の倫理基準では、同様の実験を行うことは難しいだろう。
 近年では、「ユニバース25」の悲劇的な結末は単純な過密状態だけが原因ではなく、「過剰な社会的相互作用」や「攻撃的な個体による資源の独占」が引き起こしたのではないか、という解釈も提示されている。つまり、問題は資源の量そのものではなく、その分配方法や社会的な関係性のあり方にあったのではないか、というわけだ。

悪夢に終わった実験「ユニバース25(universe 25)」楽園はなぜ地獄へ変わったのか?
(画像=Image by Tibor Janosi Mozes from Pixabay,『TOCANA』より 引用)