「食料も水も住処も無限にあり天敵もいない。まさに理想郷」。そんな環境を与えられたマウスたちは、しかし、やがて互いを攻撃し、育児を放棄し、ついには絶滅へと向かった――。
これは、1960年代後半から1970年代初頭にかけて、アメリカの動物行動学者ジョン・B・カルフーン博士によって行われた「ユニバース25」実験が描き出した衝撃的な結末だ。

(画像=ジョン・B・カルフーン By Cat Calhoun – Own work, CC BY-SA 3.0, Link,『TOCANA』より 引用)
この実験は単なる動物実験としてだけでなく、人口過密や社会崩壊といった、現代社会が抱える問題とも重ね合わせて語られることが多い。なぜ理想郷はディストピアへと変貌したのか?そして、この実験結果は、私たち人間に何を教えてくれるのだろうか。本記事では、「ユニバース25」実験の詳細と、それが現代社会に投げかける問いについて解説する。
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「ユニバース25」実験の舞台設定:マウスたちの理想郷

(画像=ジョン・B・カルフーンとマウスの実験 画像は「Wikipedia」より,『TOCANA』より 引用)
1968年に開始された「ユニバース25」。カルフーン博士は、約2.7メートル四方の広さを持つ囲いを準備し、これを4つの区画に分けた。
それぞれの区画には、いつでも食料を補給できる給餌ホッパー、給水ボトル、そして豊富な巣材が用意された。室温はマウスにとって快適な摂氏20度に保たれ、病気が持ち込まれることのないよう、衛生管理も徹底されていた。まさに、マウスにとっての「楽園」である。
この理想郷に健康な4組(オス4匹、メス4匹)のマウスが放たれた。カルフーン博士の狙いは、資源が無限にある状況下で、マウスの個体数が増加した際に社会行動がどのように変化し、どのような結末を迎えるのかを観察することだった。この囲いは最大で3840匹のマウスを収容できる設計だったが、実際の個体数のピークは約2200匹だったという。