チームが注目したのは、グループ内のシャチの体に見られる傷痕の多さです。
頂点捕食者であるシャチが他の生物に手を出されることはありませんが、グループ内外の争いによって頻繁に怪我をします。
本研究では、北米太平洋岸に住むシャチのグループを監視し続けている米クジラ研究センター(Center for Whale Research)が収集した過去47年分のデータを分析しました。
具体的には、閉経後のメスがリーダー・繁殖できるメスがリーダー・メスのリーダーがいない3つの群れを対象に、グループ内のシャチたちの傷痕を調査。
その結果、閉経後のメスがリーダーの群れでは、グループに属するオスの子孫の傷痕が大幅に少ないことが判明したのです。
他の2グループに比べ、平均して35%も傷が少なくなっていました。

一方で、繁殖できるメスがリーダーの場合とそうでない場合では、子孫の傷痕の多さは変わりませんでした。
これは閉経後のメスがグループ内外における子供や孫たちの争いを抑制する働きをしていることを示唆します。
研究主任のチャーリー・グライムス(Charli Grimes)氏は「おそらく出産の負担がなくなったことで、子供たちを守るための時間とエネルギーが解放されるのでしょう」と見解を述べました。
ところが不思議なことに、傷痕の減少効果はグループ内のオスだけに見られ、メスの子孫では確認されなかったのです。
つまり、閉経後のメスは息子たちだけを優先的に守り、娘たちは無視していることを意味します。
一体なぜでしょうか?
娘たちを守ると逆に「負担」が増える?
研究者らは閉経後のメスが娘を守らない理由について「進化的な理由がある」と考えます。
シャチが目指すのは、あらゆる動物と同じく”種の繁栄”です。