輪住(lúnzhù)に驚く
台湾調査での一番の驚きは、「子と近居」のスタイルにあった。俗にいう「スープの冷めない距離」に象徴される「子と近居」は、当時の日本でも珍しい形態ではなかった。しかし台湾ではさすがに男系の「宗族」意識の強さがあり、日本のような「近居」とは様子が全く違っていた。
何よりも台湾の「子と近居」は、親が息子の家を泊まり歩く「輪住」が主流であったからである。具体的な事例としては、祖父母に3人の息子と2人の娘がいるとする。娘は他家に嫁いでいるので、最初から「近居」の対象外である。
「輪住」こそが親孝行
代わりに、3人の息子の家を1年間のうち4か月ごとに泊まり歩く「輪住」こそが親孝行であるという規範であった。その際には長男、次男、三男の区別はなく、平等に4か月ごとに両親の世話をする。
十数軒のインタビューした家族すべてが「輪住」をしていたのではないが、半数近くが行っていて、やっていてもやっていなくても皆さんの回答は台湾では「輪住」こそが最高の親孝行であるというところに落ち着いた。日本語ではこれを「たらい回し」と呼んで否定的な意味しか与えないから、この家族規範の差異は強烈であった。
この数年間は、1994年の「国際福祉シンポジウム」に招待していただいた国立政治大学の社会学教授の先生方、研究費の補助でご支援を受けた松下国際財団、現地調査でお世話になった内政部の課長以下の何人かのスタッフ、そして通訳も兼ねてくれた国立政治大学の社会学専攻の院生諸氏との縁と運を常に感じていた。
比較文化論に目覚める
沖縄・那覇空港からわずか1時間、NHKBS放送が受信できる台北市での調査で一番の発見が「輪住」であり、この経験ほど現地調査での観察の重要性を教えられたことはない。加えて、比較することの重要性がしっかり学べたことで、その後の比較文化論にこだわる私なりの実証的研究への指針になったと考えている。