卵巣のう腫の約90%は良性の腫瘍であり、ほとんどの場合、そのまま放置して何の問題もありません。

大抵は治療の必要なく数カ月で消失し、患者さんも診断を受けない限り、腫瘍に気づかないことが多いといいます。

しかし今回のケースのように、腫瘍が過剰に肥大化して、腹部を圧迫したり、重い鈍痛を引き起こすことが稀にあります。

また腫瘍が破裂すると、鋭い痛みや出血、腹部の満腹感、吐き気や嘔吐、発熱、めまいなども生じるという。

このイタリア人女性の場合、腫瘍の長さが約40センチ、重さ5キロというサイズにまで成長していました。

ただ女性の腫瘍はこれほど肥大化しているにもかかわらず、破裂の兆候はなく、ホルモンバランスや月経周期にも異常が出ていませんでした。

6時間半に及ぶ大手術

それでも腫瘍による強い圧迫のせいで生活に支障をきたす一連の症状が出ていたため、摘出手術が決行されました。

まず腫瘍自体の除去をする前に、腫瘍に穴を開けて内部にたまった約37リットルの液体を排出。

その後に残った腫瘍を取り除き、摘出によって欠損した腹壁の再建手術を行っています。

手術は6時間半に及び、その間に女性は約6リットルの出血とその分の輸血を受けました。

下は手術前に撮影された、腫瘍で膨れた患者の腹部の画像です。(科学雑誌に報告されている実際の画像はこちらから)

手術台に横たわる女性
手術台に横たわる女性 / Credit: Michele Peiretti et al., American Journal of Case Reports(2023)

結果、手術は無事に成功し、女性は一命を取りとめました。

手術前の体重は約123キロで、BMIは50.5の病的肥満と新出されていましたが、術後のBMIは28.3にまで落ちています。

(日本肥満学会の基準ではBMI18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」とされる)

しかし女性は術後も集中治療室に約30日間入院し、その間に心停止と急性腎不全に陥ったという。