そのメンデレビウム核(励起状態を「258Md*」と呼ぶ)が核分裂を起こす様子を詳しく測定することが、今回の研究の大きなポイントでした。

具体的には、メンデレビウムが割れて生じる「二つの核分裂片」を検出器で捉え、それぞれの速度と運動エネルギーを正確に測定します。

そうすることで、分裂片の質量(重さの比率)が対称的か非対称的かを見極めるのです。

さらにチームは、ヘリウム粒子を照射するエネルギーを微調整し、メンデレビウム核が持つ励起エネルギーを変化させました。

たとえばエネルギーをやや低め(15MeV付近)に設定した場合と、やや高め(18MeV付近)に設定した場合とで、どの程度対称あるいは非対称の分裂が増えるかを比較したのです。

これまでのウランやプルトニウムなどの誘導核分裂では、エネルギーを上げるほど対称核分裂が増えるというのが主な傾向でした。

ところが今回の実験では、エネルギーが高いほどむしろ“大きさの違う二つの破片”をつくる非対称核分裂が増加するというデータが得られました。

質量257を超えたあたりから核分裂のあり方が一転し、従来の知見と異なる振る舞いが観測されたわけです。

研究チームは併せて、原子力機構が開発した動力学シミュレーションを使い、実験とほぼ同条件でメンデレビウム核の分裂過程を再現しました。

すると、非対称核分裂が増える傾向が計算上でも確認され、メンデレビウムのような“重く中性子が多い”核では、これまで当たり前と考えられていた分裂様式が必ずしも支配的ではないことが浮かび上がりました。

このように希少なアインスタイニウムから出発し、タンデム加速器と先端的な測定・理論モデルを組み合わせたことで、私たちは「257の壁」を超えた領域における核分裂の複雑さを初めて本格的に捉えることができました。

今回の結果は、「まだ見ぬ超重元素の先」や「星のなかで鉄より重い元素がどのように合成されているのか」という壮大な問いに対して、新たなアプローチで迫る手がかりを示しているといえます。

宇宙の元素工場に潜む逆転スイッチ

宇宙の元素工場に潜む逆転スイッチ
宇宙の元素工場に潜む逆転スイッチ / Credit:Canva