核分裂には大きく分けて、破片がほぼ同じ大きさになる「対称核分裂」と、片方が大きくもう片方が小さい「非対称核分裂」があるとされています。
ウランやプルトニウムなどでは、主に非対称に割れることが多いのが知られた特徴です。
その一因として、“殻構造”と呼ばれる原子核内部の微妙なエネルギー配置が関係していると考えられます。
これは、ちょうど電子が特定の軌道に配置されるように、陽子や中性子にも安定しやすい“魔法数”のような組み合わせが存在する、というイメージです。
ところが、質量数が257を超えるさらに重い原子核を調べてみると、真っ二つな対称核分裂の割合が急増する現象がある程度確立された観測として示唆されてきました。
つまり、これより重い(あるいは中性子が多い)原子核では、一度に二つのほぼ同じ質量の破片に分かれやすい可能性が高いのです。
これは、“より重い核になると殻構造の影響が弱まり、液滴のような均一な塊として割れやすくなる”という見方を後押しするものでしたが、実際にはデータが非常に限られており、その理由や条件については謎が多く残されていました。
ここで大きな役割を果たすのが、99番元素アインスタイニウム(Es)です。
アインスタイニウムは1952年に南太平洋で行われた水素爆弾実験の残骸から初めて発見された“核実験生まれ”の元素です。現在でも年間に合計ミリグラム程度しか合成できず、主に米国オークリッジ国立研究所の高フラックス炉でナノグラム単位の試料が確保されるだけという超希少種です。Esはα線とγ線を絶えず放ち、自ら発熱して結晶格子を数週間で壊してしまうほどの放射線パワーを持ちます。アインスタイニウム熱中性子捕獲断面積は約3800 barnとウランを大きく上回り、炉内ではすぐより重いメンデレビウムへ育つため「超重元素製造の踏み石」にもなります。また重要な点としてアインスタイニウム-254は、半減期が275日と超重元素としては比較的長く、実験室で本格的な化学が行える“最後の元素”として研究者を魅了し続けています。