この仕組みによって、環境変化や免疫細胞の攻撃といった厳しい条件下でも、形質を自在に変えながら生存や増殖を続けることが可能になっていると考えられます。
実際、ヒト由来の膜タンパク質を表面に取り込む動きは、単純に外側を覆うだけでなく、免疫系に「自分の細胞」と錯覚させる点で非常に巧妙です。
一方で、こうした偽装やアニュープロイディを支える分子機構を解明できれば、ピンポイントでそれらを阻害する薬剤の開発も視野に入るかもしれません。
たとえばCRISPR/Cas9を用いる研究が進めば、より正確に病原因子を切り分ける技術が確立され、今後の治療戦略に大きく貢献すると期待されています。
ただし、ヒトとは異なるゲノム構造や増殖サイクルが障壁となり、実用化にはさらなる研究と時間が必要です。
それでも、赤痢アメーバの特異な性質を理解することは、従来の薬剤に頼るだけでは対処しきれない感染症対策へ向けて重要な一歩になるでしょう。
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参考文献
Wily Parasite Kills Human Cells and Wears Their Remains as Disguise
https://biology.ucdavis.edu/news/wily-parasite-kills-human-cells-and-wears-their-remains-disguise
元論文
Work with me here: variations in genome content and emerging genetic tools in Entamoeba histolytica
https://doi.org/10.1016/j.pt.2025.03.010
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。