近年の観察によって、赤痢アメーバがヒトの細胞を“かじり取る”ように破壊する動きを見せることが分かってきました。

一部の研究者たちは、この微生物を「スキンウォーカー(Skin-walker)」と呼ぶほど巧妙な免疫回避能力があると指摘しています。

“Skin-walker” はもともと ナバホ族の伝承に登場する邪悪な魔術師(yee naaldlooshii)の俗称で、「他者の皮をまとって姿を変える者」というニュアンスをもつ形容です。

このかじり取りによって、寄生虫の外面が“ヒト由来”の分子に覆われるため、本来ならすぐに攻撃されるはずの寄生虫が免疫に発見されにくくなるのではないかと考えられています。

ただし、赤痢アメーバが実際に何をどうやって奪うのか、そしてどのような遺伝子がかかわるのかについては、これまで詳細がはっきりしませんでした。

さらに、赤痢アメーバが示す“不均一な倍数性(アニュープロイディ)”やRNA干渉(RNAi)が、どれほどこの寄生虫の変身能力や免疫逃避に影響しているのかも大きな謎のままです。

そこで今回研究者たちは、顕微鏡を使って赤痢アメーバの偽装の過程を詳細に暴くとともに、遺伝子解析、RNA干渉の評価など多角的な手法で総合的に検証し、その免疫回避メカニズムを突き止めようと試みました。

「ヒトの細胞の皮を被ったバケモノ」の真実

「ヒトの細胞の皮を被ったバケモノ」の真実
「ヒトの細胞の皮を被ったバケモノ」の真実 / Credit:Canva

研究者たちはまず、赤痢アメーバがヒト細胞にどのように接触するのかを顕微鏡で観察し、その動きを詳細に記録しました。

すると、寄生虫はヒト細胞の表面に取り付くと、小さな断片を“かじり取る”ように切り離し、まるで「皮膚」や装飾品のように身につけているかのように見えたのです。

これは外膜を破るだけではなく、細胞質の一部を含む“塊”をちぎり取っており、先行研究で示唆されていた“偽装”行為を裏付ける決定打となりました。