母体側(間質細胞)と胚側(胚盤胞)のやり取りがうまくいって初めて妊娠が成立するという点を、試験管の中で可視化できる可能性が開けたのです。
このオルガノイドを使えば、タイムラプス観察などで細胞同士の“会話”を捉えながら、分子や遺伝子レベルの働きを深く調べられます。
将来的には、ヒト細胞を使った応用モデルへ発展させることで、着床不全の原因解明や新たな治療法の開発に役立つかもしれません。
もちろん、本物の子宮には血管や免疫細胞など多彩な要素が含まれ、今回のオルガノイドがそれらをすべて再現しているわけではありません。
しかし着床において重要な上皮細胞と間質細胞のやり取りが外の世界で可視化できる点で、研究や治療応用に向けた大きな一歩を示したといえます。
胎児の成長をさらに長期間支える仕組みや、より複雑な妊娠環境を再現するには今後の改良が必要ですが、まずは“不妊の謎を解くための新たな鍵”として、このモデルがさまざまな分野の研究を加速していくことが期待されます。
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参考文献
マウスの着床現象を体外で再現するモデルを確立
https://www.yamaguchi-u.ac.jp/weekly/41157/index.html
元論文
Establishment of an in vitro implantation model using a newly developed mouse endometrial organoid
https://doi.org/10.1242/dev.204461
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部