子宮を人工培養し、そこにマウスの赤ちゃんの元(胚)を“着地”させる――そんな夢のような実験が現実になりつつあります。

本来、子宮の中でしか起こらない胚の“着床”を、外の世界でまるごと再現する技術が大きく進展しました。

日本の山口大学で行われたマウス研究によって、子宮内膜オルガノイド(人工培養された子宮内膜)を用いた実験が行われ、本物の子宮のように受精卵が子宮の内膜の表面にぴたりとくっつき、奥へと潜り込んでいく着床現象が確認されました。

これまでの技術では着床の段階はある意味でブラックボックスであり、この段階に問題があっても何が原因かを解き明かすことは困難でしたが、モデルの完成によりリアルタイムでの追跡が可能になりました。

この“試験管の子宮”が着床不全の謎や不妊治療にどんな革命をもたらすのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年5月14日に『Development』にて発表されました。

目次

  • 着床は“見えない壁”だった
  • 試験管で始まる“命の実況中継”
  • 試験管から始まる妊娠革命

着床は“見えない壁”だった

着床は“見えない壁”だった。
着床は“見えない壁”だった。 / 子宮内膜オルガノイドの作成によってiPS細胞などから子宮内膜を作成できるようになりました/Credit:マウスの着床現象を体外で再現するモデルを確立

妊娠の最初のステップとして欠かせないのが、子宮内膜への「着床」です。

受精卵(胚)が、子宮の内側にある子宮内膜にぴたりとくっつき、そこからさらに奥へ潜り込んでいくという現象ですが、これはお母さんのお腹の奥で起きるため、直接じっくり観察するのがとても難しいです。

その結果、不妊症の大きな要因として着床の失敗(着床不全)があることは知られていても、実際にどのように起きているのかが把握しづらく、謎が多く残っていました。

そこで近年注目されているのが「子宮内膜オルガノイド」という技術です。

オルガノイドは人工培養された臓器や器官であり、現在までに脳オルガノイド、皮膚オルガノイド、各種消化器官のオルガノイドなどさまざまな人工培養臓器が作成されています。