ウィーンには国連薬物犯罪事務所(UNODC)の本部があることもあって、世界の薬物・麻薬関連の動向には注意してきた。AFPが最近、「米国における薬物の過剰摂取による死亡者数が昨年、5年ぶりに最低水準だった」というニュースを発信した。一見、朗報だが、その記事の内容を読むと、「米国は不法麻薬との厳しい戦場」ということが分かる。すなわち、世界最強国の米国は実は「内戦中」ということなのだ。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより
米国疾病対策センター(CDC)によると、薬物の過剰摂取による死亡者数は昨年約27%減少し、10万人を下回って8万391人となり、2019年以来の最低水準だった。しかし、死亡者の半数以上は依然としてオピオイド(麻薬性鎮痛剤)のフェンタニルによるものだ。オピオイド系鎮痛剤フェンタニルの過剰摂取による死亡者数は2023年の約7万6000件から4万8422件に減少したと推定される。
こうした全体的な改善にもかかわらず、「過剰摂取は依然として18歳から44歳のアメリカ人の主な死亡原因となっている」と報告書は述べている。過去20年間で、米国民100万人が薬物の過剰摂取で死亡したと推定される。オピオイドの流行は、製薬会社が中毒性のある処方鎮痛剤を積極的に販売した1990年代に始まった。
2期目に入ったトランプ大統領は就任直後、「中国がメキシコ経由で米国に麻薬を大量に密輸しており、時にはコカインや他の物質が混ぜられている」と非難し、中国に20%の懲罰的関税を課したのも頷ける。以下、ドイツ民間放送ニュース専門局ntvのケビン・シュルテ記者の記事(2月9日)を参考に、米国の薬物・麻薬汚染状況をまとめる。
同記者は「米国の貿易戦争は麻薬戦争でもある」と端的に指摘している。トランプ大統領は就任3週目に、米国の最重要輸出国の3カ国メキシコ、カナダ、そして中国に関税を課した。メキシコとカナダに対しては、関税停止の見返りに、米国への麻薬密輸を阻止するために国境に1万人の兵士を派遣するなどの対策を約束させた。トルドー首相(当時)はまた、カナダがメキシコの麻薬カルテルをテロリストリストに載せ、米国と協力して「組織犯罪、フェンタニルの密売、マネーロンダリングと戦うための特別部隊を設置する」と発表した。