つまり私たちが日常的にイメージする“熱放射”とは異なるメカニズムで光が生じているのです。
試薬を使わずに生体の“わずかな光”を測定するだけで、健康状態やストレスレベルを探れるかもしれない――そんな新しいバイオマーカーとしての可能性が、いままさに開かれようとしています。
生きている細胞や組織は、いわゆる「熱による黒体放射」で光っているわけではありません。むしろ細胞内の化学反応の過程で、ごく微かな光「超弱光子(UPE)」を常に放出しているのです。この光の波長は、主に可視光(およそ350~700 nm)や近赤外域(約1270 nm)に及び、強度は1平方センチメートルあたり1秒間に10~100個程度という、非常に弱いものです。なぜこんな微弱光が生まれるのかというと、細胞呼吸や炎症反応によって生じる活性酸素種(ROS)が大きく関わっています。強力な活性酸素が、脂質・タンパク質・DNAを酸化する段階で、高エネルギー分子が一時的に生成されます。これらの高エネルギー分子が元のエネルギーレベル(基底状態)に戻るとき、余ったエネルギーが光子として飛び出すのが超弱光子の正体です。通常の状態ではミトコンドリア呼吸鎖から漏れ出す電子がわずかながら活性酸素を生み、これが背景的な微弱光を形作っています。ミトコンドリアが存在しない細菌や古細菌なども生命活動に伴う活性酸素などの高エネルギー分子が発生し得るため、理論的には全ての生命が発光していることになります。
しかし近年、この微弱光をとらえる高感度な撮像技術(電子増倍CCDカメラなど)の進歩により、生物の“オーラ”とも言える発光現象が科学的に研究できるようになりました。
過去の研究で、生物光子の放出強度はストレスや疾病の有無によって変化することが示唆されてきました。
例えば植物は傷つけられると発光が増す可能性が報告され、人でも細胞の異常増殖(がんなど)が発光強度に影響を与えるとの指摘があります。