以前、友人と会食した際、「これ、名刺代わり」といって最新の著書をくれました。氏いわく「出版して儲けるなんてとても無理」と認めています。ではなぜ、それでも出版するのかと言えば社会での認知度アップなのだと思います。認知される方法はいろいろあります。かつては学者が論文を発表することで認知されました。次に専門家や研究者が専門の書籍を発行することで認知されるようになります。今ではSNSを通じてインフルエンサーが沢山生まれていますが、アカデミアのレベルで考えると専門を深掘りしたような書籍の出版実績がより社会的信用度が高まりやすいのです。つまり、「書籍が名刺代わり」というのはそれにより「自分を公的にアプローチしてもらう営業」をしているとも言えます。事実、その書籍をくださった方は社会学者として時々報道でコメンテーターとしてお名前をお見かけします。

では専門的知識がなければどうするか、これが日経の記事、「『誰でも作家』同人誌脚光 コミケ300万作品、研究の糧に」であります。同人誌とは自主製作本であり、平たく言えば自費出版に近いものです。とにかく自分の主義主張をパブリックにアプローチし、自分のファン層を獲得し、心地よい「自分だけのユートピア」を目指すのでしょう。

同人系は書き物に限らず、絵とかアニメもあります。私どもがいつも出ているアニメのイベントでは約150の出展者のうち、1/3ぐらいは同人系の絵やアニメを売っています。売れている人もいるし、一日で何点しか売れない人もいるようですが、彼ら彼女らはそこに出展し、自分の作品をアピールすることに意義を感じており、客に「素敵な絵ですね」と言われることで嬉しくなる、つまり肯定的認知を忍耐強く待ち続けるように見えるのです。

くだんの日経の記事によるとビックサイトで開催される「文学フリマ」の出展者は3000以上、来場者は15000人に上るそうです。また、無料で素人の小説を公開、閲覧できるサイトの登録者は270万人とされます。