しかし一度でも高速衝突(ハイパーベロシティ衝突)が発生すれば危機的です。
ラクキー氏は「ひとたび衝突カスケードが始まれば、超高速衝突の場合は極めて迅速に壊滅的な事態へ発展する」と強調しています。
まさに宇宙規模のドミノ倒しです。
さらに長い目で見ると、静的な衛星配置ではいずれ破綻すると結論づけました。
恒星系内の他の天体による重力擾乱が無視できないためです。
例えばその恒星系に木星クラスの巨大惑星が存在したり、恒星が連星系だったりすると、重力の影響でダイソン・スウォームの衛星軌道は少しずつズレを蓄積します。
リドフ-コザイ効果などによって、当初は別々の軌道面を回っていた衛星同士が数百万年スケールで傾斜角を変化させ、最終的には衝突コースに乗る可能性があるそうです。
ラクキー氏の計算では、太陽系を例にすると木星のような惑星の重力だけで数百万年以内に衛星群が不安定化し得るとのことです。
連星の場合はわずか数千年で衝突カスケードが誘発されるケースもあるといいます。
数百万年や数千年といった時間は人類史から見れば途方もなく長いですが、恒星規模の構造物を維持するには決して十分とはいえません。
さらに恒星の放射エネルギーも問題です。
ヤルコフスキー効果によって、衛星が自転しながら日射と熱放射を不均衡に受けると、経年で徐々に軌道にズレが生じます。
同じ軌道帯に投入した衛星がばらける原因になりうるのです。
恒星の自転による重力場の歪みや、太陽風・コロナ質量放出(CME)などの宇宙天気も、衛星群に少なからぬ影響を与えます。
このように多種多様な要因が重なり合い、ダイソン・スウォームは放置すると軌道ゆらぎを蓄積し、いずれ衝突コースへと入ってしまうというわけです。
塵と化す夢――ダイソン球の運命と教訓
