1つは観察可能な範囲に異性文明が存在しない可能性。
もう1つはダイソン・スウォームという巨大建造物の維持運営の困難さに起因するものです。
つまり、ダイソン・スウォームのような無数の人工衛星を長期間に渡り恒星の周りに張り付けておくことは、思いのほか難しい可能性があったのです。
そこでラクキー氏は超高度文明が構築した人工衛星の“大群”が長期間にわたり存続できるかどうか、詳細な理論検討とシミュレーションを行いました。
その結果、何もしなければ避けがたい連鎖衝突(コリジョン・カスケード)の脅威が浮かび上がりました。
これは、地球周回軌道の宇宙ごみ問題で知られるケスラーシンドロームにも似た現象です。
一基の衛星が故障して軌道制御を失うと、やがて別の衛星と衝突して大量の破片(デブリ)を生みます。
その破片はさらに別の衛星に次々と衝突し、連鎖的に衝突事故が広がってしまいます。
ダイソン球という巨大システムにおいて最初の衝突が発生するまでの時間は、「衛星群が覆う面積の割合で軌道周期を割った程度」しかないという計算も示されました。
言い換えれば、恒星を取り囲む範囲(カバー率)が大きいほど衝突開始までの時間が短くなるということです。
エネルギーを効率よく集めようと衛星を高密度に配置すれば、それだけ早くカスケード崩壊が始まるわけです。
もちろん高度文明も衛星が安定して運行できるよう軌道を構造化するでしょう。
たとえば赤道面に複数のリング状軌道帯を作るなどの工夫が考えられますが、ラクキー氏によれば、そうした方法でも初期衝突の発生を大幅には遅らせにくいそうです。
「ある程度のランダム要素が加われば、結局衝突は避けられない」という指摘です。
ただし軌道を整然と配置することで衝突時の相対速度を下げる効果は期待できます。
低速の衝突なら破片の飛散が多少抑えられるため、カスケードの増幅を鈍化させることはできるでしょう。