ウランは海水中でウラニルイオン(UO₂²⁺)という形でごく微量存在しますが、例えば似た化学的性質を持つバナジウムなど他の金属イオンがはるかに高濃度で含まれており、ウランだけを選択的に「釣り上げる」ことが困難でした。

従来は、ウランに強く結合する特殊な樹脂や繊維(アミドキシム系ポリマーなど)を海水に浸して吸着させる方法が主に試みられ、近年ではこの吸着材の改良によって性能向上とコスト低減が図られてきました。

しかし、それでもウラン1kgを海水から回収するのに数百ドル以上かかるとの報告が多く、実用化のハードルは高いままでした。

こうした中、近年「電気化学的」に海水中のウランを引き離すアプローチも有望視され始めました。

電気の力でイオンを動かしたり化学反応を起こしたりすることで、より速くウランを回収し、吸着材も再利用できる利点があります。

しかし電気化学法にも課題がありました。

海水中でウランイオンを直接回収しようとすると高い電圧が必要になりがちで、エネルギー消費が大きく非効率だったのです。

特に、ウランを陰極(マイナス電極)で回収する裏で、陽極(プラス電極)側では水から酸素を発生させる反応などが生じますが、この酸素発生にはかなりの高電圧(1.23V以上)が必要です。

そのため従来型の電気化学的手法では2ボルト以上の電圧を要するケースもあり、結果としてエネルギーコストがかさんでしまいました。

そこで研究チームは、必要電圧を飛躍的に下げてエネルギー効率を高める方法に挑戦しました。

単三電池以下の電力でウランがとれる

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図は、海水に溶けたウランイオン(UO₂²⁺)を“両側から挟み撃ち”で奪い取る様子を描いています。左右に銅製の陽極とチタン製の陰極が向かい合って据え付けられています。スイッチを入れるとまず陰極側で電場が働き、プラスに帯電したウランイオンが磁石に吸い寄せられる鉄粉のようにチタン表面へ集まり、そこで電子を受け取って不溶性の酸化ウラン(UO₂)へ変わって張り付く――これが“直接電気還元”です。同時に陽極の銅はわざと錆びる方向(Cu⁰→Cu⁺→Cu²⁺)にゆっくり酸化され、その途中で生まれるCu⁺がウランイオンと出会うと、電子を譲り渡してUO₂やU₃O₈に変える“間接還元”を引き起こします。つまり陰極は電気でウランを引き寄せて還元し、陽極は自分が酸化されるエネルギーを利用してウランを巻き込みながら沈殿させるという二段構えで、どちらの極にもウランが固体として付着します。酸素発生のような高電圧反応を回避しているため駆動電圧はたった0.6Vで済み、海水中のウランが次々と両極に“吸いつく”ことで溶液側の濃度は急速に下がり、装置全体がまるで低い堤防を越えながら水面を一気に干上がらせるようにウランを抜き取っていきます。/Credit:Yanjing Wang et al . Nature Sustainability (2025)