突貫工事ゆえにさまざまな不都合

 なぜ運用コストの増加が生じているのか。立命館大学情報理工学部教授の上原哲太郎氏はいう。

「自治体システムの標準化を進めるために、政府が高いセキュリティレベルのシステム基盤を構築して、そこに自治体のシステムを集約していき、運用コストも抑制するという方針は合理的といえます。

 運用コスト増大の大きな要因としては、もともとの計画に無理があったことがあげられます。標準化から移行まで本来は最低でも10年ほど必要だろうとされてきましたが、法律が施行されてから移行までの猶予は5年と決められてしまいました。まず各自治体がオンプレミスで運用している現行システムを標準化してから、それを徐々にクラウドに移行していくというのが、あるべき形であり、大きくコストを低減できる進め方ですが、ワークフロー・仕様の整理・見直しを含めて現行システムの標準化をしっかりやろうとすれば、それだけで5年くらいかかります。それを移行まで含めてすべて5年でやろうとしているので、突貫工事ゆえにさまざまな不都合が生じて、それを抑え込むための費用が発生してコストが増大していると考えられます。

 時間が限られるため、少なくない自治体がオンプレミスで運用しているシステムをストレートにそのままクラウドに移行しているとみられますが、それだとクラウドへの移行のメリットは出ず、コストダウンにつながりにくいです。

 また、セキュリティレベルの引き上げも要因としては考えられます。これまで各自治体のシステムのセキュリティレベルはバラバラで、なかにはそれほど高くない自治体もあったかもしれませんが、クラウドへの移行に伴い全自治体が一律で非常に高いセキュリティレベルに合わせる必要があるので、その対策のためのコストは発生してきます。また、移行作業に伴い大きな手間と一時的なコストも必要となってきます」

 では、将来的に自治体が負担する運用コストが徐々に下がっていくということは期待しにくいのか。

「とりあえずは期限が法律で決められた以上、移行を急がなくてはいけないということで一時的にはコストが増大するものの、移行前よりも運用コストが高いという状態が続くということは許されないでしょうから、今後はコスト抑制の方策について議論がなされ、中長期的には徐々に下がっていくという展開になるのではないでしょうか」