これまで個別でシステムの開発・運用を行ってきた全国の自治体は、今年度(2025年度)内をメドにシステムをデジタル庁が整備する「ガバメントクラウド」に移行させる必要がある。システムの共通化により行政のデジタル化を進めることが狙いであり、デジタル庁は自治体が負担するシステム運用経費が18年度比で3割削減されるとしていたが(目標値)、実際には平均で2.3倍、最大で5.7倍になっていることが問題視されている。システム開発会社役員は「民間企業でもコスト削減を目的にクラウドに移行したところ、トータルでみると運用コストが上がってしまうというケースはあり、国だけの問題ではない」と指摘する。なぜ、このような事態が起きているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

国の定める標準仕様の増大により開発・保守費用が肥大化

 21年に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に基づき、原則として自治体は25年度内に行政システムの標準化とガバメントクラウドへの移行を求められている。基幹業務システムの統一・標準化が目的であり、標準化対象事務は住民基本台帳、戸籍の附票、固定資産税、介護保険、国民年金など計20。デジタル庁はガバメントクラウド導入の目的について「人的・財政的負担を軽減し、地域の実情に即した住民サービスの向上に注力できるようにするとともに、新たなサービスの迅速な展開を可能とすることを目指しています」と説明している。具体的には以下のとおり。

・標準化基準への適合などにより、ベンダロックインを回避し、アプリケーションレベルにおける複数の事業者による競争環境を確保する

・制度改正や突発的な行政需要への緊急的な対応等のために標準準拠システムを改修する必要がある場合には、地方公共団体が個別に対応する負担を軽減するとともに、当該改修の範囲を最小限にし、かつ、迅速に改修を行えるようにする

・地方公共団体がシステムを自ら整備・管理する負担を軽減する

・高い水準のセキュリティを担保する

・基幹業務システムからのデータの取り込みを円滑に行うことが可能となり、迅速な国民向けサービスの開始に寄与する

 問題となっているのは、自治体のコスト負担の増大だ。デジタル庁は「標準準拠システムへの移行完了後に、2018年度比で少なくとも3割の削減を目指す」としていたが、中核市市長会は1月、デジタル庁と総務省に「地方公共団体情報システム標準化に関する緊急要望」を提出。そのなかで以下のように訴えている。

・中核市における移行前の運用経費の平均は3億3800万円である。これに対して、移行後の運用経費の平均は6億8400万円、平均倍率2.3倍に大幅に増嵩し、5割以上の自治体で2倍以上の増、最大で5.7倍にもなっている。

・平均で3億4600万円、最大で8億700万円も運用経費が増大するのは、中核市にとって大きな痛手であり、重い負担である。

・国の定める標準仕様の増大により開発・保守費用が肥大化したこと、またシステムの肥大化と相まって、当初期待されたガバメントクラウド利用の低減効果が得られなかったことも十分に想定される。

・調査結果からはガバメントクラウドの利用による運用経費の低減効果は確認できない。