つまり、ペルシャ猫やエキゾチックショートヘアなどの短頭型猫の頭骨は、パグやペキニーズなどの短頭型犬の頭骨と酷似した形状に進化していたのです。
ペルシャ猫は平たく短い顔と上向きの鼻先を持つ短頭種の代表で、犬のパグやペキニーズと比べても遜色ない「ぶちゃむくれ」顔です。
実際、本研究で測定されたペルシャ猫、パグ犬、ペキニーズ犬の頭骨はいずれも平坦で短い顔と上向きに傾いた鼻口部(マズル)・口蓋を備え、互いに驚くほど類似していました。
こうした「赤ちゃん顔」の頭骨形状は自然界には存在しない特殊なタイプで、計測対象の中には鼻骨が完全に消失してしまったペルシャ猫もいました。
さらに興味深いことに、この短頭形質はネコ科内部でもイヌ科内部でもそれぞれ2回ずつ独立に進化していたのです。
犬では、ブルドッグ系統(欧州原産)とパグ・ペキニーズ・狆・シーズーなど東アジア原産の愛玩犬系統で別々に平たい顔が生じ、猫ではペルシャ(ヒマラヤンなどを含む)系統とビルマ(バーミーズ)系統で独立して短頭形質が進化していました。
これは、犬と猫の間で収れん進化が起きただけでなく、それぞれの種の内部でも収れんが繰り返し起こったことを意味します。
かわいい進化の代償

生物学で言う「収れん進化」とは、本来血縁の遠い生物同士が同じような環境や選択圧のもとで似通った形質を獲得する現象を指します。
鳥類とコウモリが独立に翼を進化させて空を飛ぶようになったり、別系統の海生物がカニのような平たい体型に辿り着く――といった例が典型です。
進化において有利な特徴は異なる系統で繰り返し選ばれやすいため、収れん進化の出現はその形質の汎用的な有用性を示すものとも言えます。
今回明らかになった犬と猫の「ぶちゃむくれ顔」の収れんは、一見すると新たな適応形質のようにも見えます。
しかし重要なのは、これは自然選択による適応ではなく、人間の美的嗜好によって人為的に作り出された形質だという点です。