道徳とは、社会の中で共有される規範やルールのことを指します。
けれど現代のネット社会では、それとは別に、個人が持つ“なんとなくの正しさ”が、しばしば道徳のような顔をして他人を責める場面が目立ちます。
この問題は「被害者叩き」で特に顕著に現れています。
子どもが事故にあった親に対して「目を離したのが悪い」という意見が出たり、ネットで炎上被害にあった人に「自業自得」という意見が出たり、土砂災害にあった人に「そんな場所に住むのが悪い」という意見が出たり。
確かに問題に対する因果関係はあったにせよ、それで被害者が叩かれたり責められるというのはおかしな感じがします。
カナダのヨーク大学(York University)を中心とする国際研究チームは、そんな因果応報の正義感ともいえる「カルマ的思考」が個人の中でどう働いているのかという問題を調査しました。
するとそこには非常に偏った人間の倫理観が見えてきたのです。
この研究はアメリカ心理学会の学術誌『Psychology of Religion and Spirituality』に2025年5月に掲載されています。
目次
- 自分には良い行動の報いを、他人には悪い行動の報いを求めている
- 「被害者叩き」が起こる原因
自分には良い行動の報いを、他人には悪い行動の報いを求めている
カルマとは、サンスクリット語で「行い」や「行動」を意味する言葉で、一般的には「善い行いは善い結果を、悪い行いは悪い結果を引き起こす」という考え方を表しています。
これはいわゆる「自業自得」や「因果応報」といった考え方の根底にあるものです。
誰かを手助けしたとき、「いつか自分にも良いことがある」と考えたり、「悪いことをすればいつか罰が当たる」というこの考え方は、誰の中にも多かれ少なかれ存在しているでしょう。

今回の研究チームはこの「行動に応じて、それに見合った結果が返ってくる」というカルマの非常に単純明快な概念が、人の道徳観を理解するのために利用できると考え調査を行いました。