これは単なる個人の問題ではなく、社会が“キャリアと家族形成の両立”を許容していない構造そのものの問題です。
さらに、研究チームは心理的要因にも注目しています。知能が高い人ほど計画的で、将来のリスクに敏感である傾向があり、「完璧なタイミングで子どもを持ちたい」「育児に失敗したくない」といった思考が働きやすいと考えられます。
このように、身体的には早く親になれる能力があるにもかかわらず、社会的・心理的な圧力によってそのタイミングを遅らせざるを得ない──それが現代の人間社会が抱く大きな矛盾点なのです。
少子化は経済格差だけの問題ではない
今回の研究は、少子化問題が「お金がないから子どもを産めない」といった単純な構図だけでは説明できない、根深い問題であることを指摘しています。
むしろ知的で計画的に人生を歩んできた高学歴・高収入の人ほど出産をためらい、最終的に子どもを持たない選択をする可能性が高いという事実を明らかにしています。
これは、「誰かが悪い」わけではありません。進化的には生殖に有利な個体が、社会制度や労働文化、家族観の変化と衝突することで、逆に子孫を残しにくくしているという、現代ならではの構造的ジレンマです。
経済格差が出産における大きな障害になっていることは事実です。そのため経済的支援や育児制度の拡充はもちろん必要ですが、それだけでは少子化問題は解決できない可能性が高いのです。
キャリアと家庭を両立させることは困難だ、ということはすでに多くの人が実感している問題でしょう。
現代の社会システムでは、出産・育児が「人生のリスク」となってしまい、「人生を豊かにする選択肢」として受け入れられていません。ここには社会の意識変化を含む文化的な土壌づくりが必要になってくるでしょう。
「賢い人ほど子どもを持たない」という問題は、実は、現代社会がどれだけ個人の選択を許容できているのかを映し出す鏡なのかもしれません。