この関連性は、思春期の抑うつ症状の有無や、海馬容積に影響する遺伝的要因を統計的に調整した後でも有意でした。
一方、左側の海馬については、統計的には有意な差は認められませんでした。
海馬は脳の左右に存在しており、各側でやや異なる役割を持つとされています。
一般に、右海馬は空間的記憶やストレス応答に関わる機能が強く、左海馬は言語的記憶や事象の記憶に関係しているとされます。
そのため、今回の研究で右海馬にのみ有意な容積の縮小が見られたのは、幼少期の虐待がもたらす慢性的なストレスが、特に右海馬の発達を阻害しやすい可能性を示しているのかもしれません。
今後は、さらなる追跡によって成人期の脳構造・機能や認知・精神状態への影響、さらには社会的成果(たとえば学業の達成度、職業的安定性、対人関係の質など)への波及を検討する必要があるでしょう。
子ども時代の環境が、その人の記憶や感情の処理に関わる脳の機能そのものに長期的な影響を及ぼす。
そんな事実を、私たちはもっと真剣に受け止めるべきなのかもしれません。
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参考文献
Maltreatment in childhood linked to smaller hippocampus volume through adolescence
https://www.psypost.org/maltreatment-in-childhood-linked-to-smaller-hippocampus-volume-through-adolescence/
元論文
Childhood maltreatment and the structural development of hippocampus across childhood and adolescence
https://doi.org/10.1017/S0033291724001636
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。