研究では、2009年から2019年にかけて、ブラジルのサンパウロ市とポルトアレグレ市の2都市から集められた6〜12歳の子ども795名を対象に、最大3回(ベースライン、3年後、6年後)の脳MRIスキャンを実施し、各時点でのデータから縦断的な分析を行いました。

虐待歴の評価には、親と子ども双方へのインタビューが用いられ、身体的虐待、性的虐待、感情的虐待、育児放棄(ネグレクト)の4種類について調査が行われました。

そして得られた回答を因子分析にかけ、親と子どもの報告を統合した「虐待レベルのスコア」を算出。

その上で、参加者を「高虐待群」と「低虐待群」に分類しました。

加えて、MRI画像から左右の海馬の容積を算出し、虐待経験の有無が脳の構造に与える影響を、年齢や性別、抑うつ症状の有無、さらには海馬の遺伝的リスクなどを加味して解析するという、非常に緻密なモデルが構築されました。

では、この研究の結果は何を示すのでしょうか。

幼少期の虐待が右海馬を持続的に縮小させると判明

調査の結果、23%の子供が少なくとも1種類の虐待を経験しており、約4%が何らかの抑うつ症状、31%が何らかの精神障害を抱えていると分かりました。

そして最も重要な発見は、右側の海馬の容積が、虐待を受けた子どもで成長を通して小さい傾向を示したという点でした。

通常、海馬の容積の発達は加齢とともに増加し、思春期にピークを迎えてからはゆるやかに安定または減少していく傾向があります。

ところが、高虐待群の右海馬では、その成長の開始点が低く、全体的に容積が抑えられたまま推移することが示されました。

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幼少期に虐待を経験すると右の海馬が小さいままだった / Credit:Wikipedia Commons

さらに驚くべきは、この傾向が思春期(17歳前後)まで持続したということです。

つまり、成長とともに「追いつく」ような回復傾向は見られなかったのです。