主流学説との大きな隔たり:なぜ「神話」とされるのか?

 しかし、現代の主流のエジプト学や考古学は、これらの先王朝時代の記述を歴史的事実として認めていない。一般的には「神話」の領域として扱われているのが現状だ。なぜだろうか?

 理由の一つとして、これらの記述が文字通りの歴史記録ではなく、後世の王権の正当性を示すための神話的な系譜、あるいは宇宙観や時間の概念を象徴的に表現したものである、という解釈が有力だからだ。数千年、数万年といった統治期間も実際の年数ではなく、神聖さや永遠性を示すための比喩的な数字と見なされることが多い。

 また、主流の学者は文字記録や考古学的な遺物といった、より客観的で検証可能な証拠に基づいて歴史を構築する。先王朝時代の「神々の統治」を裏付けるような具体的な考古学的証拠は現在のところ発見されていない。

 一部の「異説」支持者は、主流の学者が自説に合わない古代文書の記述を意図的に無視している、と主張する。しかし、これは「無視」というよりは、歴史資料としての信頼性や解釈方法の違い、証拠の確度の問題として捉えられている、と考える方が自然かもしれない。