にもかかわらず、氏は高級マンションをいくつか手掛けている。その一つが「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ(三菱地所株式会社)」だ。

プロモーション映像は、まるで新海誠のアニメーションのように美しい仕上がりである。

貸し切りのキッチン付スカイビューラウンジ、夜景の輝きでゲストをもてなすゲストルーム、そしてパーティールーム。超高層タワーマンションならではの、豪華絢爛な施設が充実している。地上50階建2棟の1,438戸に対し、事前案内のエントリーは10,000件を超えているという。

このタワーマンションについて隈氏は以下のように語っている。

「建築物を作るというよりは、二本の大きな木を作りたいなっていう風に考えたんですね。二本の大きな木、その足元の大地。それを含めて人間の住処としてデザインしたいな、という思いが今回の形につながりまして」

公式 ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ

(当然だが)「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ」は木造ではない。木は、比喩表現だ。二棟の高層マンションを「二本の木」になぞらえている。コンセプトは「大地から生える二本の大樹」。その暮らしに根付いて育つ大樹のような存在を目指すという。

齟齬を防ぐために

新国立競技場の「装飾としての木」、高輪ゲートウェイ駅の「木の模造」そして 武蔵小杉タワーズの「比喩としての木」。隈氏の作品を見てきた。どうだろう。構造や材料が「正直に」見せられているだろうか。

氏は、木造や木といった言葉を、かなり「幅広い」意味で用いているように思える。よって、齟齬が生じやすい。クライアントとして接するとなると、その可能性はさらに高まる。発注にあたっては、相応の知識が必要となるだろう。

現在、愛媛県宇和島市で、隈氏が設計した「伊達博物館」の工事が進んでいる。建材として、伊達家ゆかりの竹や藩造林・泉貨紙など、宇和島ならではの素材が使われる。一方、総事業費が56億3000万円と高額であるため、反対デモも起きているという。市には、建築家・施工業者と積極的にかかわり、先の「那珂川町馬頭広重美術館」と同じ轍を踏まないようにしていただきたい。

新伊達博物館建築設計業務 設計説明書宇和島市ホームページより