屋根部分は、観客席から一望でき、最も「日本らしさ」を醸し出している箇所だ。一見、木造に見えるが、鉄骨が挟み込まれており、屋根を支えるのも、この鉄骨である。木材は、構造体※ではなく、法的には「装飾」として扱われる。私たちが競技場で目にする木の大半は「装飾」なのだ。
※ 構造体(こうぞうたい)とは、建物を支える骨組み部分のこと
高輪ゲートウェイ駅の外構
高輪ゲートウェイ駅の外構の多くは木材ではない。木目模様が印刷されたアルミパネル「アートテック(大日本印刷)」が使われている。隈氏は以下のように述べている。
「高輪ゲートウェイの場合では、本物の木を使っている部分とアートテックを使った部分が混在しているんですけど、実はほとんど分からないんですね。見た人は」
スペシャルインタビュー 隈研吾からみたARTTEC 建築のこれからの課題|DNP Official【大日本印刷株式会社】

建築実例‐高輪ゲートウェイ駅|アートテック-アルミ外壁パネル・内外装建材-DNPウェブサイトより
確かに、アルミパネルだとは全く気付かない。
駅は他の建築以上に耐候性が必要とされる。隈氏が、アルミパネルを使う理由は、耐候性が高く、メンテナンスが楽で、木と同じような質感・表情があるからだ。2013年の玉川高島屋施工でこの製品を採用して以来、頻繁に使っているという。
ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズのコンセプト
「木の質感」を重視する隈氏は、マンションに対して辛辣である。
「コンクリートの『マンション文化』というものが、日本人のセンスを破壊したと、ぼくは思っています」
『なぜぼくが新国立競技場をつくるのか-建築家・隈研吾の覚悟』隈研吾 著/日経BP社
狭い間口なのに一定の間取りを確保して、仕上げに大理石を貼ったりして、高級マンションのように見せかける。テクスチャマッピング(素材を模した画像を表面に貼り付けること)みたいな手口で、質が伴わない空間を高級だと思わせる。そんなことをマンション業界はやってきた。そのビジネスによって、日本人の教養の一部が破壊された、という。