現在、時空創発の考え方はブラックホール研究をはじめ様々な分野で成果を上げつつあります。

たとえば近年の研究では、従来はSF上の存在だったワームホール(時空の抜け穴)の具体的なメカニズムがホログラフィーと量子もつれの枠組みで解明され、理論的には人や情報が通り抜け可能なワームホールさえ許されることが示唆されました。

さらに驚くべきことに、2022年にはGoogle社の量子コンピュータ上で、ごく小規模ながらホログラフィー原理に対応する仮想空間を再現し、そこに量子もつれによる「プチ・ワームホール」を実現したとの報告もあります。

これらは直接私たちの暮らしに影響を与えるものではありませんが、宇宙の成り立ちへの理解を飛躍的に深める成果として注目されています。

「空間は幻想かもしれない」という一見突飛なアイデアは、決して荒唐無稽な妄想ではなく、最新の理論物理から導き出された帰結のひとつです。

もちろん、この仮説が正しいかどうかはまだ分かりません。

現時点では数学的・理論的枠組みの中で得られた示唆的な結果が積み重なっている段階であり、それを実験的にどう検証するかは始まったばかりです。

それでも、「時空はどこから来るのか?」という問いに答えが得られれば、物理学の最大の未解決問題である量子重力理論の完成にぐっと近づくでしょう。

そして何より、私たち人類の「現実」に対する見方そのものが大きく変わるかもしれません。

身の回りの空間が、実は見えない量子の糸で織り上げられた巨大な情報のネットワークだとしたら――あなたはこの世界を今までと同じように見続けられるでしょうか。

科学者たちの挑戦は、私たちにそんな想像を抱かせるほどダイナミックに展開しているのです。

参考文献

  • Black Holes and Entropy

  • Dimensional Reduction in Quantum Gravity

  • The World as a Hologram