超弦理論では宇宙は10次元(空間9次元+時間1次元)で記述されるとされ、私たちの目に見える三次元以外の次元は極めて小さく巻き込まれている(コンパクト化している)と考えられています。
ただし、理論の種類によっては11次元を想定するM理論などのバリエーションもあります。
ワシントン大学の若手研究者ナタリー・パケット博士は、この余剰次元を「育てる(grow)」という不思議な発想の研究を行っています。
どういうことでしょうか。
パケット博士によれば、まず空間中のあらゆる点に小さな輪っか状の「余剰次元」がくっついているところを想像します。
それらの輪っか(円)をどんどん縮小していくと…ある段階で奇妙な転換が起こり、それ以上縮めようとすると逆に新たな大きな次元が出現してくるのです。
まるで手前にあって小さく見えていたものが、実は遠くにある巨大なものだったと気づくような“次元版の錯視(パースペクティブ)”とも言えます。
実際に超弦理論では「極小の次元」と「巨大な次元」が数学的に等価になることが示されており、空間次元の概念自体が相対的であると考えられます。
私たちは三次元を“当たり前”のものと思っていますが、別の視点から見ればまったく異なる姿に映る可能性があるというわけです。
そして何よりも近年注目されているのが、量子情報の観点から時空を捉え直そうとする試みです。
キーワードは再び量子もつれですが、それを量的に測る指標として知られるエントロピー(もつれの強さ)を用いて、空間の距離やつながりを定義しようという研究が進んでいます。
例えば、ある2つの粒子がお互いに強く量子もつれを起こしているとき、それらの粒子がたとえ銀河の端と端にあるほど離れていても、隣り合った点として扱えるかもしれない、という発想です。
逆にもつれがまったくなければ、それらは遠く離れた無関係な点になります。
このアイデアでは、宇宙全体を満たす見えない「量子もつれのネットワーク」こそが空間の骨組みを形作っていることになるのです。