2017年にクリストファー・シムズは安倍首相と面談し、消費税の増税延期でインフレにする政策を提案して衝撃を与えた。そのときは8%から10%に上げるのを延期してインフレを起こすという発想だったが、今回の5%減税はそれよりはるかに過激なインフレ税になる。これは理論的には可能である。シムズのFTPLで考えると、物価は

物価水準=名目政府債務/プライマリー黒字の現在価値(*)

で決まる。消費減税して発行する国債をすべて日銀が引き受けると、政府債務(国債)を日銀当座預金(日銀の債務)に置き換えるだけなので、政府と日銀を合計した統合政府では名目政府債務は変わらない。国債金利は国庫納付金として政府に返すので無視できる。

ここで日銀が「引き受けた国債は償還を求めない」と宣言して国債をマネタイズすると将来の税収は減り、統合政府の資産((*)式の右辺の分母)が小さくなるので、左辺が増えてインフレになり、政府の実質債務は減る。これがシムズのいう実質債務のデフォルトである。

名目債務のデフォルトは財政破綻だが、実質債務の一部デフォルトは今も起こっている。それはインフレによる金融資産の減価なのでほとんどの人は気づかないが、富の分配は平等になる。

同じようなことを国民民主の玉木代表も提唱している。消費減税で発行する国債をすべて無利子の永久国債として全額を日銀がマネタイズすれば、政府債務は消えるのだ。

これは「財政ファイナンスだ」と批判され、海外ファンドが日本国債を大量に空売りするだろう。日銀がそれをすべて買うと大量の通貨が供給され、黒田ショックのときをはるかに上回る大インフレが起こるだろう。それがねらいである。

「マイルドなインフレ税」は可能か

5%のインフレになると、毎年65兆円(政府債務1300兆円の5%)の借金が踏み倒せる。それが10年続くと政府債務は半減し、財政危機は解決する。1000兆円以上ある年金債務も、インフレで大幅に軽減できる。減税分13兆円を相殺するだけなら、インフレ率を1%上げて4%にすればいい。