制度に従うことは悪ではない。むしろ制度があるからこそ、公平性や透明性が担保され、社会の安定が実現する。しかし、制度が「絶対化」されたとき、人間の創造力はその枠内に閉じ込められてしまう。
制度に守られ、制度に信頼を置き、制度に従うことが唯一の行動原理となったとき、現場の創意工夫や独自の挑戦は抑圧される。そして、制度そのものを設計し、世界に提案する力もまた失われるのである。
かつて日本が「ものづくり大国」として輝いていたのは、製品や品質だけでなく、製造現場における不断の改善と現場起点の創造性があったからだ。
制度の内側からの最適化を超えて、制度の外側に立って制度そのものを問い直す──そうした想像力が、いまの日本には必要とされている。
6. 炭素共生──制度創造へ向けた日本的発想のひとつとして
現在の脱炭素政策は、制度としての制約が多く、企業や現場にとって柔軟な判断や技術開発を妨げる要因となることも少なくない。こうした背景の中で、筆者は「炭素共生」という発想を、新たな制度構想の一例として提案してみたい。
この考え方は、炭素を単に削減対象とするのではなく、“生命を育み自然を形づくる根源的な資源”と見なし、技術開発・産業設計の方向性を変えていこうとするものだ。過剰な制度依存ではなく、自主的で創造的な環境技術や製品開発を後押しする枠組みとしての制度再設計に資するものと考えている。
このような制度提案が、単に欧州の制度を輸入するのではなく、日本から新たな技術的・制度的ビジョンを世界に発信する契機になるのであれば、日本は「制度順応国」から「創造国」への脱皮を果たすことができるであろう。技術立国の復権を目指す上でも、このような主体的提案こそが求められているのではないだろうか。
7. 結論──制度順応から創造への文明的転換
日本が今後も持続可能な社会として歩んでいくためには、制度にまじめに従うという“美徳”を見直す必要がある。必要なのは、制度を理解し、その上で必要に応じて改変し、あるいは新たな制度を生み出す「制度創造力」である。