実際、市販されている天然系の洗剤は植物由来のサポニン(界面活性剤)など限られていますが、生産性の低さやウール・シルク製品へのダメージ、皮膚への刺激性など課題も指摘されています。

そのため低コストで大量生産でき、環境や洗浄対象に優しい効果的な代替洗剤の開発が望まれていました。

近年、界面活性剤を使わず固体粒子で油と水の混ざりにくい液体を安定化させる「ピッカリングエマルション」と呼ばれる技術が注目されています。

微細な粒子(ナノ粒子)は油水界面に自己集積して堅固な膜を作り、油滴の再凝集を防ぐことができます。

この原理を利用すれば、化学合成の界面活性剤を使わずに汚れを乳化・除去でき、低コストかつ環境への負荷が小さい洗浄剤につながると期待されています。

実際、粘土由来のハロイサイトナノチューブを用いた研究では、布や食器の汚れ落とし性能が市販洗剤を上回るという報告もあります。

セルロースナノ繊維は植物から得られるバイオナノ材料で、親水性と疎水性の両面を持つことからピッカリングエマルション用の粒子として有望視されてきました。

しかし単独のセルロース繊維では表面に親水性の官能基が多く油とのなじみが足りないため、従来は化学修飾で疎水性を付与する必要がありました。

そこで中国・天津科技大学のPengtao Liu氏ら研究チームは、化学薬品を使わず“物理的”な方法でセルロースナノ繊維の表面特性を変え、ピッカリング効果によって油汚れを落とす新たな洗浄剤の開発に挑みました。

木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤

木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤
木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤 / Credit:Wenli Liu et al . Langmuir (2025)

研究チームはまず、木材パルプ由来のTEMPO酸化セルロースナノ繊維(繊維径数ナノメートル程度)と、トウモロコシ由来の疎水性貯蔵タンパク質であるゼインを組み合わせました。