毎日の洗濯や食器洗いに欠かせない洗剤ですが、その有効成分である合成界面活性剤などは分解されにくく、水域で藻類の異常繁殖(いわゆるアオコや赤潮)を引き起こす環境問題が指摘されています。
中国の天津科技大学(TUST)で行われた研究によって、木材から得た極細のセルロース繊維とトウモロコシ由来のタンパク質を組み合わせて作った環境調和型の新しい洗剤が報告されました。
この「天然素材」洗剤は衣類や食器の油汚れを市販の合成洗剤に劣らないほど効果的に落とせることが示されています。
この完全な生分解性で肥料にもなりそうな洗剤は私たちの日常をどこまで変えてくれるのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年02月18日に『Langmuir』にて発表されました。
目次
- 生物由来の洗剤はできるのか?
- 木とトウモロコシから生まれた「土に還る」洗剤
- “油を鎧う粒子”が示した脱・化学洗剤の道筋
生物由来の洗剤はできるのか?

市販の洗剤には石油由来の合成界面活性剤(アルキルフェノールエトキシレートやアルキルベンゼンスルホン酸塩など)が含まれ、リン酸塩などの助剤も配合されています。
これらの製造工程や使用後の排水は環境への負荷が大きく、特にリン酸塩は水辺の富栄養化を招いて水質悪化の原因となります。
また、近年問題視されているマイクロプラスチック汚染にも、洗剤や柔軟剤に含まれる香料のマイクロカプセルなどが一因となりえます。
例えば衣料用洗剤に使われる微細なプラスチック製マイクロカプセルは、香り成分を放出した後も環境中に残留し、生態系を汚染し続けます。
こうした背景から、家庭用品の環境影響に対する関心が高まり、合成界面活性剤やリン酸塩を含まない天然由来の洗浄剤が求められてきました。
しかし従来の「エコ洗剤」は生産が難しく洗い流しにくいものも多く、製造コストや価格が高かったり、洗浄対象の素材(衣類や食器など)を傷めてしまうケースもありました。