「ブーン」「ゴー」といった、低く持続する不快な音。それは特定の地域、あるいは特定の条件で、一部の人々の耳にだけ聞こえるという。世界各地で報告されるこの奇妙な現象は「ハム音・ザ・ハム(The Hum)」と呼ばれ、多くの人々を不眠やストレス、時には深刻な健康被害へと追い込んでいる。しかし、その正体は依然として謎に包まれており、原因不明の怪現象として調査関係者を悩ませ続けている。

スコットランドからアメリカまで…「聞こえる人だけ」の苦悩

 近年、スコットランド最北西端のアウター・ヘブリディーズ諸島、特にルイス島の東側に住む住民たちが、この奇妙なハム音に悩まされている。「ヘブリディーズ・ハム」と名付けられたこの音について、住民たちはFacebookグループを立ち上げ、情報を共有し、対策を訴えている。「家電製品のうなり音とは違う。屋内でも屋外でも聞こえる、持続的な環境音だ」とグループの説明には記されている。耳栓をして寝る住民もいるが、それでも完全に音を遮断することは難しいようだ。

 同様の現象は、世界各地で報告されている。2013年にはイギリス・ハンプシャー州のサウサンプトン・ウォーター周辺(特にハイス、ホルベリー、フォーリー地区)で、夜間に低周波のドローン音(うなり音)がするとの苦情が相次いだ。当初10件だった苦情は、あっという間に30件以上に増加。住民たちは深夜から早朝にかけて特に音が気になると訴えた。

 アメリカでも、2018年にはニューヨーク州ロチェスター郊外の住民が、1年以上にわたってハム音に悩まされていると報じられた。「一度聞いたら頭から離れない」とその不快感を語る住民は、新聞社に助けを求めた。新聞社が音響工学の専門家に分析を依頼したところ、315~320ヘルツの周波数を持つ音であることは特定できたものの、工場や発電所など、疑わしい発生源の音とは一致せず、正体の特定には至らなかった。

 さらに2023年には、北アイルランドのオマーという町でも、数週間にわたって住民を悩ますハム音が発生。夜間に数時間続くこの音のせいで眠れないという声が多数上がり、地元当局が調査に乗り出す事態となった。当初は町の一部でしか聞こえないと思われていたが、調査を進めるうちに町全体で聞こえていることが判明し、原因究明はさらに困難を極めた。