最大の苦労は失った信頼を取り戻すこと

 組織風土改革とともに、顧客への対応も大きく変えている。徹底しているのは、透明性を確保することだ。

「お客様に対しては押し売りをするのではなく、提案することをマニュアルやロールプレイで学んでもらっています。重要なのは、車を販売する際の価格と、買い取る際の金額について、全ての情報を開陳して透明性を確保することです。整備の場合は写真を撮ることで、どんな整備をしているのかをわかるようにしています」

 しかし、まだまだ取り組みが伝わっているとは言いがたい。現状の販売台数は、事業を引き継ぐ前に比べて約5割、整備についても5割を超えている程度。田中氏はビッグモーターがWECAERSという新しい会社に変わったことが、十分に知られていないことも要因にあると見ている。

「WECARSの認知度はまだまだ低いです。あるいは、経営陣も会社の考え方も変わったことが伝わらず、ビッグモーターが名前と看板を変えただけの会社だと思われているのかもしれません。ただ、少なくとも1年前の状況とは変わってきました。以前利用していただいた方が徐々に戻ってくるとともに、中古車の繁忙期である1月から3月にかけては、新規のお客様も増えてきました。認知度を高めていく努力をもっとしなければならないと思っています」

 1年が経った現在の状況を、田中氏は「想定通り」と表現する。その真意を次のように説明した。

「この1年で最も苦労してきたのは、お客様にいかに信頼してもらって、店に戻ってきていただくかということです。もちろん私たちは努力しますけども、皆さまがどう感じるのかまではコントロールできません。店頭でなじられることはほとんどなくなったと聞いていますが、『不正をした会社だろう』と言われることは、これからもあるでしょう。1年経った今の状況は想定通りです。これからも失った信頼を取り戻すことが最大の挑戦ですね」

 WECARSには伊藤忠商事から田中氏を含めて約20名、伊藤忠エネクスから50人以上が移籍して改革を進めている。不正請求が起きた保険業務は廃止して、伊藤忠商事グループの「ほけんの窓口」の店舗を大型店に順次併設しており、今年6月末までには全国に130ある大型店全店に設置される予定だ。また、車検や整備についてはグループ会社が出資するナルネットコミュニケーションズとの協業も進めている。田中氏は2年目の抱負に、組織風土改革を続けることを挙げた。

「伊藤忠グループや取引先とのネットワークによってBtoBのお客様が増えれば、経営は安定していくと思っています。ただ、伊藤忠商事の岡藤正弘会長からは数字については何も言われず、組織風土を変えるのが先だと言われています。最終的には店舗の周りの人たちに支持されるかどうかで商談数が決まります。2年目も組織風土改革を続けていくことで、お客様にも変わったと感じていただけると思っています」

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

提供元・Business Journal

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