1年かけて取り組んできた組織風土改革に手応え

『動機』と『機会』を取り除いた上で、不正の『正当化』をさせないために、力を入れているのが組織風土改革だ。

「かつての社内のコミュニケーションは、上意下達だけの一方通行的なもので、社員は物を言えない状況でした。引き継いでからは、社内の風通しを良くするための取り組みを重ねてきました」

 取り組みの一つが、ハラスメントや下請法などの法令について、動画を見て学ぶ研修だ。外部の企業が制作したものだけなく、自社で制作したものも含めて、週1回、8か月間にわたって研修を実施。動画はロールプレイ形式の演出で、何をしてはいけないのかを具体的な事例で学んだ。

 もう一つは一体感を醸成すること。社内報を月2回発行して、田中氏が毎号トップとしてのメッセージを発信しているほか、全国の店舗から毎回2店舗を紹介している。他にも各店舗で顧客との間で問題が起きた際には、幹部と共有して解決を目指す体制(即一報制度)を作ったほか、内部通報制度も整備した。田中氏は組織風土改革に手応えを感じている。

「私たちが4200人の社員を引き継いだ時点で、旧経営陣や、不正を指示するなど悪いことをしていた人たちはすでに会社を去っていました。ただ、他の社員についても、ビッグモーターの看板を支えている意識は薄かったのではないかと感じています。現在は一人ひとりがWECARSを支えていることを理解してもらおうと、社内報ではさまざまなメッセージを発しています。

 すると、最近は社員の皆さんからのフィードバックが変わってきました。コンプライアンス対策本部が実施したアンケートでは、最初はコンプライアンスの取り組みに対して『本気だとは思えない』『形だけだ』といった回答が半分以上を占めていましたが、今はほとんどの社員が、会社が本気で取り組んでいると認識しています。一番嬉しいのは、店舗にいる社員が明るくなったことですね」