伊藤忠商事などが出資したWECARSが、保険金の不正請求など一連の不祥事で経営難に陥った旧ビッグモーターの事業を承継して1年を迎えた。旧ビッグモーターから約4200人の従業員を受け入れて、不祥事の再発防止に取り組んでいる。WECARSは全国46都道府県に245の店舗を擁し、中古車販売と買取、車の整備、それに鈑金塗装の事業を展開している。店舗も事業内容も、保険金の不正請求問題などの不祥事で経営難に陥った、旧ビッグモーターとその子会社から引き継いだものだ。
伊藤忠商事とエネルギー事業を手がける伊藤忠エネクス、それに投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズの共同出資によって設立され、旧ビッグモーターの旧経営陣は経営に参画していない。かつて約6000人いた社員は約3分の1が辞めて、約4200人がWECARSに引き継がれた。今回、伊藤忠商事出身のWECARS代表取締役社長、田中慎二郎氏に取材し、1年間に実行してきた改革や今後の課題などについて聞いた。
不祥事の再発防止のためにコンプライアンスの徹底を図る
田中氏は社長就任以来、自ら全国の店舗を訪問し、店長や工場長らと対話を重ねてきた。同時に、不祥事の再発防止のためにコンプライアンスの徹底を図っている。その具体的な取り組みを明かした。
「不正を行う3つの要素に『動機』と『機会』、それに『正当化』があります。この3つを取り除くことに取り組んできました。旧ビッグモーター時代にあった『動機』は、ノルマがきつく、達成しない場合は降格するなど過度な待遇悪化に結びついていたことです。ノルマは廃止して、定性項目を評価する人事制度に変えました。ただ、成果を出した人に対するインセンティブはモチベーションにつながるので、なだらかなものに変えて残しています。
『機会』の一つは、不正があった修理や車検の業務です。工場の多くが法令違反と認定され、37工場が車検業務を行う指定工場を取り消されました。現在は国土交通省に10項目の改善計画書を提出して、以前はなかったマニュアルの作成や巡回監査などを実施して、店舗で不正ができない仕組みだけでなく、不正して利益を出しても評価しない文化を作りました」