こうした外科的・内分泌的・社会心理的・経済的ストレスが複合的に作用し、手術群でうつ病が統計的に有意に高く観測されたと考えられます。

ただ繰り返しますが今回の研究は観察研究であり、介入前後の変化を直接測定したものではないため、「手術そのものが症状を悪化させた」と断定することはできません。

研究チーム自身も、前向きに追跡調査を行ったわけではない点や、社会的支援の有無など測定できなかった要因が結果に影響している可能性を認めています。

しかし一方で、「手術を受ければ心が楽になる」という一般的な期待に反して、受けた人の方が高い割合で苦しんでいる現実は見過ごせません。

マンハッタンの心理療法士は「性別適合手術は外見をアイデンティティに沿ったものに近づける上で極めて重要だ。しかし万能薬では決してない」と語ります。

実際、身体の不一致という「屋根の穴」を塞いでも、周囲の無理解や孤独感という別の雨が降り続けば、再び心に染み込むようなものです。

フロリダの脳神経外科医は「手術を受ければハッピーになれるという保証はどこにもない。

因果関係なのか相関関係なのか、誰にも断言できない」と指摘しています。

大切なのは「手術さえすれば全て解決」という過度な期待を避け、術前術後を通じて当事者を取り巻くサポート体制を強化することです。

研究者らも「偏見や烙印を押されるストレスは、手術の前後を問わずトランスジェンダー当事者のメンタルヘルスに影響し続ける」と指摘し、社会全体で理解と支援を広げる重要性を訴えています。

今回の新知見は一見ショッキングですが、裏を返せば「これまで以上に寄り添う医療が必要だ」というメッセージでもあります。

性別適合手術という大きな決断をした後も、当事者の心には不安や孤独が残っているかもしれません。

だからこそ専門のセラピストによるカウンセリングや、同じ立場の仲間による支え、家族や友人の理解など多角的な支援ネットワークが不可欠です。