進化とはどのくらいの速度で起こる現象なのでしょうか?
進化には、気の遠くなるような時間がかかると信じている人は多いかもしれません。何万年、何百万年とかけて生物が少しずつ変化していく。それが「進化」のイメージとして、私たちの頭にすっかり定着しています。
ところが近年の研究は、こうした常識に一石を投じつつあります。進化は、ある条件がそろえば、たった数十年という短い期間で目に見える形で起こることもあるのです。
その代表的な事例の1つが、米国東海岸の工業地域を流れる川で報告された、「キリフィッシュ」という小型の魚の急速な進化です。
この川は長年の排水によって有害物質で汚染され、生き物が住めるような環境ではありませんでしたが、そこに住む「キリフィッシュ」は毒にさらされながらも、死ぬことなく、繁殖し、群れを作って生き延びていました。
しかもそれは、米国カリフォルニア大学デービス校のアンドリュー・ホワイトヘッド教授らの研究によって、単に環境に耐えているわけではなく、明確な“進化”の結果、この過酷な環境に適応したためであることが、ゲノム解析から明らかにされたのです。
ここでは、なぜ進化がそんなに速く進んだのでしょう? この発見は、進化とは何かという私たちの理解そのものを見直すきっかけになります。
この研究の詳細は、2016年に科学雑誌『Science』に掲載されています。
目次
- 進化はどれほど早く起こるのか?
- 素早い進化は突然変異が原因ではない
進化はどれほど早く起こるのか?
きっかけは、研究チームが「ありえない」と思われる現象に出会ったことでした。
米国東海岸の都市部を流れるいくつかの川は、長年に渡る工場排水や都市開発によってPCB(ポリ塩化ビフェニル)やPAHs(多環芳香族炭化水素)などの有害物質の深刻な汚染にさらされていました。
そのため、多くの野生生物が姿を消しましたが、そんな中で奇妙に生き残っている魚たちがいたのです。