では、この彼が述べる通り、塩を入れると本当にコーヒーの苦味が軽減されるのでしょうか?

実は、この効果は科学的に証明されています。

アメリカのモネル化学感覚研究所による1997年の研究では、塩味が他の味覚を増幅させたり、抑制したりすると発表されています。

この実験では、砂糖や塩、尿素(苦味を持つ)を含んだ飲み物が準備されました。

そしてこの飲み物を与えられた参加者は、苦味や甘味の程度を評価しています。

その結果、塩の添加によって、甘味は増加し、苦味は低減するという結果が得られました。

塩には苦味を抑えて甘味を強める効果がある
塩には苦味を抑えて甘味を強める効果がある / Credit:Canva

「塩による甘味の増加」に関しては、似た事実として「スイカに塩」のような報告も古くから見られます。

最近では岡山大学が、薄い塩水が甘みを引き起こす原理について研究を報告しています。

薄い塩水はほんのり甘い?塩に含まれる塩化物イオンが「甘味」を引き起こすことが判明

同様に、「コーヒーに塩を入れると苦味が減る」という話も、この研究が示した「塩による苦味の低減」から事実であると考えて良いようです。

加えてコーヒーに塩を入れると、苦味だけでなく酸味も和らぐとされています。

ただ現段階では、塩がどのように苦味を抑えているのか、科学的には完全に解明されていません。

予測として考えられている理由の1つは、苦味物質と塩分が同じ味覚受容体に結合するという仮説です。

花粉症の抗ヒスタミン薬のように、塩分が苦味受容体と結合することで、苦味成分が結合することをブロックするというのがこの考えです。

また塩分の味覚自体が強いため、わずかでも苦味の刺激を覆い隠してしまうという仮説もあります。味覚の神経シグナル同士の相互作用が関係するというもっと複雑な仮説もありますが、いずれにせよはっきりしたことはわかっていません。

しかし、このレシピはエチオピア以外でも楽しまれており、同じくコーヒーの生産地であるインドでは、大量のミルクと砂糖、そしてひとつまみの塩を入れたインディアンコーヒーが飲まれています。