デジタルパスポート「World ID」がつくる信頼のインフラ
この来るべき課題に対するWorldの答えこそが、World IDを通した「人間性の証明(Proof-of-Personhood)」の普及である。Web上のアカウントやアクセス主体が、実在する唯一無二の人間であることを、プライバシーを保護しつつ証明する仕組み作りを目指している。

その始点となるのが、人間であることを証明する独自のデバイス「Orb」だ。Worldが開発した球形の生体認証デバイスで、ユーザーの虹彩(瞳)の固有パターンのスキャンなどを通し、その人がこれまでに登録されていない唯一無二の人間であるかを判定する。
個人の「身元(Identity)」を特定するのではなく、あくまで「唯一性(Uniqueness)」を確認する。取得したデータは本人のスマートフォンに送られ、Orbから即座に消去される。World側には氏名・年齢・性別といった個人情報は伝わらず、保存もされない。
その後、Orbで認証を済ませたユーザーに発行されるのが「World ID」であり、これこそがWorldが世界規模で普及させたい「人間証明書」になる。

World IDは「その人が実在するユニークな人間である」ことを示すデジタルパスポートのようなもので、ユーザーごとに一つだけ所有が可能。ブロックチェーン上に記録されるが、個人を特定する情報は含まない。World IDでサービスにログインする際も、ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proofs)という暗号技術によりサービス提供者側にユーザー固有の情報は明かされない。要は「この利用者は過去に認証された人間である」という事実だけが確認でき、誰であるかは分からないわけだ。
ユーザーはその「World ID=人間である証明」を用いて、スマートフォンアプリ「World App」にログインできるようになる。先日のイベントでは、送金や決済ができるウォレット機能やユーザー間のコミュニケーションができるチャット機能のほか、デーティングやSNSなど様々なジャンルのミニアプリを搭載していく「人類のためのスーパーアプリ化」の構想がぶち上げられた。
VISA加盟店でWorldcoinが利用可能になるリアルカード「World Card」や、Stripeを利用するサービスでWorld Appでの支払いができる提携など、エコシステムを広げる取り組みが続々と発表されている。

重要なのは、こうした施策はすべて「人間であることを証明されたユーザー=World IDを付与されたユーザー」を増やすという目的にリンクしているということだ。仮想通貨ではなくWorld IDを軸とするプロジェクトであることを強調する意味もあり、当初「Worldcoin」だったプロジェクト名を昨年には「World」へと変更している。
World App内外で利用できるサービスが増え、World IDを取得するメリットが大きくなればなるほど、認証プロセスを経るユーザーは増えるだろう。結果としてグローバル規模でリーチを拡大し、「AGIが脅威ではなく武器になる」世界をつくることこそがWorldの真の狙いである。