例えば、聖書のヨブ記の物語について、ヨブは不当な苦しみについて不平を言うが、神は満足のいく対応をしない。ジジェク氏は「神はヨブに『周りの世界を見なさい。苦しんでいるのは自分だけだと思っているのか?私が創造したものはすべて完璧ではなく、混乱しているのだ』と述べ、ヨブを説得するだろう」と言う。

ところで、ジジェク氏は量子力学を高く評価している。なぜなら、「量子力学は創造の大きな混乱のさらなる証拠を提供し、神の役割に再び疑問を投げかけるから」だというのだ。

近代の理論物理学を構築したアルベルト・アインシュタインは量子物理学の出現を快く思っていなかったという。観測者とは独立して存在する宇宙万物の局地性、実在性を否定し、現実は観測に依存すると主張する量子物理学の世界について、「神はサイコロを振らない」と反論したという話が伝わっている。

2022年に量子テレポーテーションの実現などが評価されてノーベル物理学賞を受賞したオーストリアの物理学者アントン・ツァイリンガー氏は「神は量子物理学に悩まされてる」というのだ。ヴィーゼルベルク記者は「神は『人間はまた量子実験を行い、私が創造を完成させていないことを証明しようとしている。私は不完全さを埋めるために何かを急いで考え出さなければならない』と呟くかもしれない」というツァイリンガー氏のジョークを紹介している。

ちなみに、量子物理学者は2つの光の粒などの量子が遠く離れていても片方の量子の状態が変わると、もう片方の状態も瞬時に変化する「量子もつれ」という現象を実験で証明し、ツァイリンガー教授は「量子もつれ」現象を利用し、情報を量子に埋め込み、それを離れた場所にあるもう一方の量子に瞬時に伝達できる「量子テレポーテーション」という現象を実験で示した。

ジジェク氏は「キリスト教の神が疑わしく、不完全であるように、自然界の偉大な者(神)も不完全だ。量子現象は神の理解を超えた何かがあることの証明だ。神は我々の量子実験に脅かされている」と述べている。