「気候変動」という言葉には、実に便利な特徴があります。それは、気温が上がっても下がっても、雨が多くても少なくても、何が起きても“気候変動の影響”として説明できるという点です。
猛暑や干ばつが起きれば、「温暖化のせいだ」と言える一方で、寒波や豪雪が起きても「気候が変動している証拠」と言える。つまり、どんな異常気象が起きても「ほら、やっぱり気候変動が進んでいる」と主張することが可能になるのです。
このように、「温暖化」という単一方向の概念では矛盾が生じやすかったのに対し、「気候変動」という用語は、矛盾を感じさせない極めて戦略的な用語に変わっていったのです。
IPCCや国連の意図的な用語シフト
実際に、国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)やIPCCは、2000年代以降「global warming」ではなく「climate change」の使用を優先するようになっています。
これには戦略的な理由があります。ひとつは、「温暖化」と言い切ると、短期的な寒冷現象との整合性を問われやすくなること。そしてもうひとつは、「気候変動」という言葉の方が、より広い範囲の気象現象をカバーでき、政策的にも柔軟に使えるという点です。
たとえば、ある国で大洪水が起きたとき、それが温暖化によるものかどうか科学的に断定するのは難しい場合があります。ですが、「気候変動の影響」として捉えると、原因を断定せずとも、政策や予算の正当化が可能になります。
メディアと政治にとって都合の良いフレームワーク
こうした背景をふまえると、「気候変動」という言葉がメディアや政治家にとっても都合が良いのは明らかです。
「異常気象 → 気候変動のせい → 温室効果ガス削減が必要」というロジックが一貫して成立しやすく、再エネ政策や炭素税導入といった“気候対策”の推進にも活用できます。
また、国民からの疑問や批判にも対応しやすくなります。「最近寒いね。温暖化ってウソなんじゃないの?」という声に対して、「いえ、それも気候変動の一環なんですよ」と返せば、それ以上の議論を封じることができます。