日本の惨憺たる現状
このように米国では未来の原子力人財の育成につながる景気の良い話で盛り上がっているが、日本はどうなのか。
日本の現状は惨憺たるものである。そのポイントを二つに絞って考えてみよう。
まずひとつは、大学生・大学院生などが実習を行える実験炉がどんどんなくなっている。廃炉になっているのである。もうひとつは大学の原子力工学科が壊滅状態にある。
① 実験炉の枯渇今、大学などが保有し大学生・大学院生の実習に使える原子炉は、近畿大学と京都大学にしかない。
実験炉の最大の要点は〝臨界近接〟実験にある。これは、炉心内部で起こる核分裂の数を徐々に増やしていって臨界を達成し、さらにその領域を広げていく実験である。
臨界は原子炉特有の現象で他にはないし、この臨界近接は原子炉の制御の基本中の基本なので、それを実際に原子炉を運転しながら体験することは非常に貴重かつ重要である。
かつては近大・京大の他にも、東京大学、武蔵工大(現東京都市大)、立教大学にもあったが今はもうない。そのほかに、JAEAや民間の東芝にもあったがなくなってしまった。
実験炉には運転要員が必要であるし、維持管理にコストがかかる。生き残った近大炉や京大炉も廃止の危機に瀕していた。その大きな要因は原子力安全規制にある。小型の実験炉にも大型の商業炉並みの規制対応が要求され、大学や研究所の小規模なスタッフ体制ではとても対応しきれないという切実な事情が息の根を止めかけたのである。
② 人材の枯渇かつてはいわゆる旧7帝大(北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九州大)といくつかの私立大学(武蔵工大、東海大、近大)に学部生向けの原子力工学科があったが、今はもうない。原子力の学部教育は全滅状態である。
大学院教育としてはまだかろうじて残っているが、表向きは物理工学とか環境〇〇とか国際〇〇となんだかよくわからない看板になっている。東工大(東科大)には日本の原子力黎明期に創設された原子炉工学研究所に付随した原子力の専攻科があったが、今ではゼロカーボンエネルギー研究所と改称され、なんだかよくわからなくなっている。