別の団体だが、日本ペンクラブの理事会で1984年、ただひとり反核アピールに反対した際に感じたことを、印象的な比喩を使って、江藤淳が書いていた(「ペンの政治学」『新潮』84年7月号)。

ただ一つ確実なことは、今度の国際ペン東京大会の舞台裏には、”平和” と ”反核” の美辞麗句を標榜しながら、ある権力意志をもってあの ”排除” の論理を、強力に行使しようとしている人ないしは人々が潜んでいる、という事実である。

この人ないしは人々が、八岐の大蛇のような神通力を持った存在なのか、はたまた二た股か三つ股かは知らないが、かりにその名を大蛇Xとして置こう。少くとも日本の文壇とジャーナリズムに関するかぎり、このオロチXこそは、そのなかに饐〔す〕えたような匂いを漂わせ、知的・精神的頽廃を充満させている元凶だといわなければならない。 (中 略) ここにいわゆる ”平和” とは、一見誰もが反対しがたいかのように見えながら、実は空疎なスローガンに過ぎないのに対して、自由とは、今ここにいる個々の生身の人間の、文学者としての死活問題に関わっていることをも、併せて指摘して置かなければならない。

なぜなら、あの ”排除” の論理を行使してやまないオロチXとは、”正義” の名の下に個々の書き手の肉声を、沈黙させることをも辞さぬ人ないしは人々にほかならないからである。

『批評と私』新潮社、126-9頁 「オロチX」のみ、強調は原文

冒頭部を「”LGBTQ+” と ”反差別” の美辞麗句を標榜しながら……」等に替えれば、そのまま約40年後のこのnoteの地の文にもなり得ることを察するのは、むずかしくない。

そして、江藤が多頭の怪物ヤマタノオロチに喩えたような、「誰が」主張しているのかがはっきりとせず、あるいは意図的に曖昧にされた、みんながこういう雰囲気だからという空気で異論の表明を封じる手法が、それこそ性差別をはじめとして、日本社会のハラスメントを支えていることも、自ら考えて生きる人には自明だ。

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