するとあたかも重力が存在するかのように遠く離れて点在する物質同士が互いに引き寄せ合い、やがて全ての物質が一箇所に固まったのです。

この結果を受けてヴォプソン博士は、情報を圧縮して計算力を節約しようという基本ルールを設定すると、それこそが重力になると結論しました。

言い換えれば、重力とは宇宙がデータをひとまとめにして効率良く管理するために生じるZIPファイルのような力だという視点です。

ヴォプソン博士の主張は一見するとトンデモ理論に思えるかもしれません。

しかし重力という唯一無二の極めて特殊な現象を、情報の圧縮という演算機側のルール(情報力学第二法則)で再現できたという点は、驚きと言えるでしょう。

言い換えればこれは、情報力学第二法則の原理から重力が導き出される存在である可能性を示すからです。

ではこのような新たな視点は、物理学をどのように変えていくのでしょうか?

重力再定義:アルゴリズムか、基本力か

重力は「宇宙が巨大コンピューター」であることの証拠となる
重力は「宇宙が巨大コンピューター」であることの証拠となる / Credit:Canva

重力を宇宙における情報最適化の手段と捉えることには、驚くべき意味合いがいくつかあります。

まず、情報は物質やエネルギーと同様に、物理的現実の基本的な構成要素であるという主張を強め宇宙現象に対する新たな視点を提供することになります。

例えば、ブラックホールの深い重力井戸は情報圧縮の極端な例である可能性があり、暗黒物質/エネルギーの謎は情報理論的に説明できるかもしれません。

ヴォプソン博士の枠組みが、重力と量子情報理論の間に新たな橋渡しとなり、計算と現実が交差する物理学の統一的理解に一歩近づく可能性もあります。

一方で、この考え方はまだ推測の域を出ず、限界もあります。

私たちの宇宙が「計算的」であるかどうかをどのように検証できるでしょうか?

新たな研究が作成したモデルはニュートンの万有引力の法則を見事に再現し、一般相対性理論と原理的に整合しているように見えますが、最終的な結論を出すにはさらに具体化する必要があでしょう。