●この記事のポイント
・建設費の高騰が深刻化するなか、新規着工できずに開発がストップする事例が全国で相次いでいる
・建設費高騰の要因として資材費の上昇とともに指摘されているのが、人手不足による人件費の高騰
・新規学卒者の建設業への入職者数は近年では減っておらず、年間4万人台で推移している
建設費の高騰が深刻化するなか、新規着工できずに開発がストップする事例が全国で相次いでいる。3月には東京・中野区の「中野サンプラザ」跡地の再開発の工事費が当初の想定を900億円以上も上回る見込みとなり、再開発計画が撤回され白紙に戻されるという事態が発生。同月には、京王電鉄とJR東日本が事業主体となって東京・新宿駅の西南口地区で進めている大規模な再開発が、一部の区で施工を担当する建設会社が決まらないため着工できず、工期完了予定時期について「未定」に変更すると発表された。
建設費高騰の要因として資材費の上昇とともに指摘されているのが、人手不足による人件費の高騰だ。人件費の指標となる公共工事設計労務単価は、25年3月に全国全職種平均で2万4852円。前年同月から1000円以上も増えた。約10年前(15年2月)と比べると5割近く高い。そんな建設業界の「成り手不足」の背景には賃金水準が低いというイメージが広まっていることがあるともいわれているが、少し前にはSNS上で、22歳で年収1200万円の職人もいるという投稿が一部で話題となっていた。建設業界関係者は「年収としては可能な金額」「若手の入職者の数が減っているわけではない」という。建設業界の今とこれからについて、加藤装飾株式会社の山本悠太氏の協力のもとに取材した。
新規学卒者の建設業への入職者数は近年では減少していない
日建連の調査によれば、加盟社の2024年度の国内建設受注額は前年度比5%増の18兆6333億円で、過去20年で最高額となった。こうした建設需要の高まりと「建設業の2024年問題」といわれる時間外労働の上限規制(時間外労働時間が原則「月45時間・年360時間」に制限され、違反は罰則の対象となる)、高齢化などにより、建設業界の人手不足は深刻だと指摘されている。
「これまで建設会社はディベロッパーなどの事業主といったん工事の請負契約を結ぶと、工事費が上昇しても事業主に追加分の費用を請求できず、建設会社がそれを吸収して“自腹を切る”かっこうでした。現在ではその力関係が逆転して、建設会社は採算が合わない工事は引き受けないようになり、事業主側も工事費が上がった分をきちんと支払う約束をしないと、建設会社に工事を引き受けてもらえないというケースも出てきています。そして大手ゼネコンは現場作業員を確保するために設備工事会社に頭を下げるという状況も生まれています」(ディベロッパー関係者)
建設費上昇の要因の一つが業界の人手不足だ。国土交通省「建設業における働き方改革と工期の適正化について」によれば、2023年の建設業就業者数は483万人で、ピーク時(1997年)と比較して約3割減となっている。もっとも、新規学卒者の建設業への入職者数は近年では減っておらず、年間4万人台で推移している。業界全体の就業者が減っているのは、建設業就業者の6人に1人が65歳以上と高齢化が進み離職者が増加していることが原因だ。ちなみに過去10年間で100名以上の工事会社の就業者は増加傾向にある。