この2人は、2018年に英南部ソールズベリーで元ロシア・スパイのセルゲイ・スクリパリ氏暗殺未遂事件や、2020年にロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に対して行われた神経剤攻撃における、ロシア当局の役割を暴露したことで知られています。

その手法は

グループはグロゼフ氏のノートパソコンを奪ってロシア大使館に持ち込む、モスクワに連れて行く、殺害するなどのあらゆる計画を立てました。イヴァノヴァ被告は飛行機でドブロホトフ氏の近くに座り、携帯電話の暗証番号が見えるほど接近したこともあったそうです。ウクライナ侵攻の最中である2022年後半には、独シュトゥットガルトの米軍基地で監視活動を実施しました。

なぜブルガリア国籍者か

ロシアはなぜブルガリア国籍保持者をスパイとして使ったのでしょうか?

ブルガリアはかつてソ連の衛星国で、ソ連を中心とする共産主義圏(東側)と米国を筆頭とする資本主義圏(西側)が対立した冷戦時代(1940年代末~89年)を、東欧の一国として生き延びてきました。東西体制が崩壊する89年に共産党独裁体制が終焉し、民主化・市場経済化を進めて現在に至ります。

旧ソ連の情報機関KGBは共産圏の同盟国に住む人々を使って工作活動をしていたそうですが、今回はロシアが同様の手法でブルガリア人らを巻き込んだ可能性がありそうです。

専門家の見方

ロシア人のジャーナリストで英国に亡命中のアンドレイ・ソルダトフ氏がBBCに語ったところによると、ウクライナ戦争開始後の2022年、多くのロシア外交官が英国を含む欧州諸国から追放されたため、ロシアの情報機関はスパイ網を再結成する必要が出てきたそうです。そこでスパイのアウトソーシング化が行われたのでしょう。私たちの周囲に外国のスパイがいるかもという懸念の種を植え付けたという点では、一定の成果を上げてしまったのかもしれません。

BBCがソルダトフ氏の命も狙われていたのではないかと聞いたとき、同氏が「自分には警察の警護が付いているから」と言ったのが筆者の心に残りました。祖国を離れざるを得ず、警察に身辺を守ってもらう生活はかなり緊張感を強いられるものでありそうです。

ロシアの極秘スパイ計画を暴露する本