『源氏物語』をはじめとする平安文学の中では、貴族たちは恋愛をしたり和歌を詠んだりする描写が多く、仕事をしている場面はあまり見られません。
しかし作品の中で描写されていないだけで、彼らも日々、一定の規律に従って職務にあたっていました。
果たして平安貴族たちはどのような仕事をしていたのでしょうか?
この記事ではあまり知られていない平安貴族の勤務時間や仕事内容について紹介していきます。
なおこの研究は、日向一雅(2004)『源氏物語と平安貴族の生活と文化についての研究-貴族の一日の生活について-』明治大学人文科学研究所紀要54巻p. 415-434に詳細が書かれています。
目次
- 日の出とともに仕事を始めた平安貴族
- 実質週休二日制だった平安貴族
日の出とともに仕事を始めた平安貴族

平安の都、つまりあの華やかでありながらも厳格な日常が彩る世界では、実は朝というものがただ単に夜の終わりに始まるのではなく、むしろ薄明かりが忍び寄るその瞬間にひそかに幕を開けるという不思議な論理がありました。
たとえば、『延喜式』16巻に記された宮中の諸門の開閉時刻を見れば、夏至の頃はまだ星影の中、午前4時30分頃、春分・秋分の頃なら5時42分頃、冬至では6時48分頃に最初の開門鼓が鳴り響き、実際の朝日が顔を出すおよそ15~20分前に、都の息吹が告げられたのです。
その鼓声は、まるで「おはようございます」と優雅に声をかけるかのように、宮中の貴族たちに今日一日の始まりを宣言する役目を果たしていました。
やがて、日の出から45分ほどした後、第二の開門鼓が鳴れば、既に貴族たちは厳かなる出仕の支度に取り掛かっていたのです。
たとえば『源氏物語』の「夕顔」巻に描かれるように、光源氏でさえも、夜の帳が薄れるとともに、隣家から聞こえる庶民のざわめきや、かすかな鈴の音に耳を傾けながら、幻想的な明け行く空の中で次の目的地へと牛車を走らせていました。