この内、特に中国による米国債大量売却と、米国による中国企業の米国市場での上場廃止は、相手を経済的に破滅させる手段と成り得るだろう。しかし、それは自国と第三国にも大打撃をもたらす経済核兵器である。

中国の「核」である米国債大量売却は、米長期金利を押し上げ、ドル信認に揺さぶりをかける。先日の米国債大量売却は、中国でもなければ農林中金でもなく米国機関投資家によるものだろうという事になっているが、米10年債利回りは急騰し、5.05%を突破。ドル円は1日で1.8%下落した。なお、人民元安・資本逃避も誘発し、中国自身の金融安定をも脅かした。

米国の「核」である中国企業の上場廃止は、米国債売却よりは小型だが、中国企業のドル調達遮断により資本市場を締め出し、外資依存を高める中国企業の信用低下を招く。しかしウォール街(ブラックロック、バンガード)など米資本も打撃を受ける事になる。

この経済版相互確証破壊(MAD)は、理性が維持される限りは均衡を保つ。しかし、「偶発的に」でも行動が暴発すれば、世界経済全体が深刻な後遺症を負う。グローバル市場の混乱、食料・エネルギー価格の急騰、供給網の分断と、発展途上国の経済危機、米中国内の失業・政権不安定化で、世界はスタグフレーションから世界恐慌に向かうだろう。またその状況下で習近平が博打を打ち台湾侵攻を図る等、台湾・尖閣、朝鮮半島、中東、欧州・ロシアで新たな紛争が起こり第三次世界大戦を誘発するリスクもある。

米中貿易戦争は、普通に考えれば関ヶ原の合戦のように自陣に味方を多く抱え込んだ側が勝利するだろう。だが、現在は潜在的にボタンに指をかけたまま睨み合う緊張状態である。そして、かすかな誤解や政権の焦りで、誰かがそのボタンを押してしまうリスクは消えていない。

互いに最終兵器は使わず、トランプが武漢研究所コロナ漏洩(説)の責任追及で、国際世論も巻き込んで習近平をジワリと追い込み、しかし止めは刺さずに軍事的には中露及び日本を含むその他で包囲し中共を暴発させずに処理するスキームを構築する。そして経済的にも米国が覇者ではなく盟主として世界をバランスさせて行く。そんな流れに落とし込めればベストだと筆者は考えるのだが、果たして…。